放射線被曝

遺伝って知ってる?

2011年3月11日14時46分に三陸沖を震源とするM9.0の巨大地震が日本を襲いました。

類を見ない最高レベルのエネルギーを地殻から放出した巨大災害です。東京でも震度4~5程度の非常に長い揺れが続き、お父さんも帰宅難民化しました。

お父さんはレトロなヒトですのでこういう時の情報源はひたすらAMラジオを聴き続けるだけなのですが、一つの市が壊滅状態等と言うニュースを聞いて本当にこれは現実の話かと耳を疑いました。

地震による直接の被害もさることながら地震が引き起こした大津波、火災、事故でたくさんの方が被害に遭われ、日本はまだ復興の途上にあります。

大震災の二次被害で大きな問題となったのは福島にある原子力発電所の被害でしょう。

設計時の想定を遥かに超えた振動と大津波のせいで緊急炉心冷却装置の電源が次々とダウンし、炉心温度を下げる事が出来なくなったのだそうです。温度が制御を外れて上昇し続け、核燃料が溶け出すメルトダウンと言う事故に繋がりました。

さて、環境への放射性物質の拡散で心配なのは放射線被曝という奴です。被曝したら良くない事は誰でも知っている。でも何で?でしょう。

放射線被曝

放射線は非常に高いエネルギーを持っていて、そのエネルギーで電離と言う現象を起こします。水を含んだものに照射されると電離作用によって化学的にとても反応性の高いラジカルと言う物質が出来上がるのです。

ラジカルがたくさん出来ると生体を構成するタンパク質・糖質・脂質、更には核酸も含めていろんな物質にラジカルが引っ付く、すなわち本来の機能が果たせない形へと分子が壊されていきます。

ですので、人体が大量の放射線を浴びると、表面的には火傷と良く似た症状が発生し皮膚には火ぶくれが出来ます。被曝による超急性期障害という奴でして、当然全身に大量に浴びれば死んでしまいます。

大量でなければ壊れた組織にしても修復して置き換わりますのでいずれは回復します。

放射線被曝で、本当にみんなが怖いと感じているのは、ガンが発生するかも?、子供がちゃんとできるかしら?と言うところではないでしょうか。

これは、放射線が直接遺伝子の分子本体である核酸DNAにダメージを与える事が理由です。

遺伝子への障害 ガン

ガンとか白血病と言うのは何らかの理由によりDNAにキズが入る事が原因になります。そしてその受けたキズにより制御が外れて暴走する細胞が生まれる事で発症します。

ただし、遺伝子のキズと言うのは放射線被曝に限らずとも日光に当たったり、タバコを吸ったり、変な食品を食べたりと言った日常生活でも普通に起こる事であり、過剰に恐れる必要はありません。

ちょっとのキズであれば、それをせっせと修復するシステムが存在していますからそう簡単にガン細胞が発生する訳ではないのです。

遺伝子と言うのはデオキシリボ核酸(DNA)1と言う巨大分子の上に載っている塩基の配列情報暗号です。ここには高度な修復のシステムが備わっていて、ちょっとキズが入ってもすぐに修復が図れると言う優れものなのです。

長い歴史を経て生き残ってきた生命と言うのは実に上手く出来た分子機械でもあるのです。

遺伝子への障害 短期的影響

修復するシステムを備えていたとしても、放射線被曝の様にいきなりたくさんのキズが入った場合、そのキズを修復して細胞を活かそうとするよりも、いっその事悪さをしない様に細胞を自殺させてしまう仕組みもあります。

アポトーシス2と呼び、もはやこれまで!と細胞が切腹してしまうのです。なんと潔い。事実、この機能に関連する遺伝子が発見された初期には、名前はharakiri-geneと論文に掲載されていました。

影響を大きく受けるのは旺盛に分裂している細胞です。分裂の旺盛な細胞と言うのは当然DNAの複製も旺盛に行われているのですが、キズがそのまま複製されてしまったらとても都合が悪いのです。

増殖速度の大きい正常組織の代表として、この本では骨髄組織とか小腸の上皮組織の例を挙げました。他にも眼の水晶体上皮細胞と言うのもあります。ですので急性期障害としてはこれらの細胞が自殺した結果として、消化管出血・骨髄抑制・放射線被曝による白内障と言うのが代表的な放射線障害の短期的症状です。

さらに、旺盛に細胞分裂しているのはやっぱりお腹の中にいる「赤ちゃん」でしょう。

初期胚の頃の彼らは、ガン細胞の増殖速度と同じ勢いで細胞分裂しています。精緻な分裂と細胞分化を物凄い勢いでやっている胎児は、正常な成長が不可能だと感じた時は自ら流れてしまうのです。

だから、ケガをしてレントゲン写真一つとるにしても妊娠初期のお母さんは被爆に注意しなければならないのです。

遺伝子の修復システム

遺伝子の本体、DNAには修復のシステムが備わっているにはいるのですが、キズの種類によっては、ガンになりやすいタイプの遺伝子のキズがあると言うのも、これまた一つの事実です。

せっせと修復するシステムがあると書きましたが、そのシステムだって遺伝子のDNA配列情報に従ったタンパク質でできています。つまり、修復システムそのものが壊れる場合もあるのです。

修復システムが上手く機能しなければ、普通に発生する遺伝子のキズも放置され貯まっていきます。キズが多くなれば、やがて暴走する細胞も生まれ始める事からガンになり易くなる訳です。

被曝の影響を最小限にするために

昔々、放射線医学と言う講義でお父さんは聞いた事があります。被曝の影響は我々が受けた放射線の量によって決まります。

自然界には一定の放射線が降り注いでいますし、その放射線の中で生命が進化してきたのですから、全てを避けまくる必要はありませんが、過剰な放射線の影響度を下げるために、次の3点に注意します。

① 時間 ②距離 ③遮蔽

日光浴と一緒と考えてもらえば良いです。あたっている時間を短くし、線源からの距離の4乗で受けるエネルギーが少なくなるから出来るだけ遠くへ・・・そして近づくならば壁を置いて避ける。と言うものです。

更に、被曝の影響を最小限にするためには体内被曝を徹底的に避けると言う事に尽きます。

反対語で体外被曝と言うのは文字通り体の外から放射線を浴びる事を言います。この場合は一次的に浴びてしまったとしても逃げれば避けることが出来ます。体に放射性物質が一次的にくっついたとしても洗えば落ちます。だから影響は小さい。

問題なのは、放射性物質が体内に入る体内被曝。医薬品の摂取と同じで、摂取された放射性物質は体内に吸収されると全身に分布し、ある物は代謝されやがては排泄される。

放射性物質が体内に入ってしまうとどうしても一定期間は体内に滞留し、その間放射線を周囲の組織に出し続ける。そしてその距離は限りなく近い。だから危ないのです。

決定臓器

生体内で合成されるホルモンにはヨウ素を含むものがあり、甲状腺と言う臓器に集積されています。ヨウ素の原子量は通常127であり放射性は有りません。安定同位体と言います。

が、こうした原子力事故の時には、中性子を余計に持ったヨウ素131と言うのが発生します。中性子を多めに持っている分、不安定で、原子崩壊の際にα線、β線を出す放射性同位体です。

体内に取り込まれた放射性ヨウ素も甲状腺に集まってしい、甲状腺が放射線に晒され続ける事によりガンが発生するのです。チェルノブイリ原発事故後、特に子供に甲状腺ガンが増加した事は有名です。

もし自分が原子力事故に遭遇した時には、決定臓器への放射性物質の集中蓄積を防ぐためにヨウ素製剤を多量に摂取します。放射性同位体よりも大多量に安定同位体を摂取すれば、出来上がる甲状腺ホルモンの放射能含有率を下げられると言う考え方。

ですので、原子力事故の万が一に備えて、政府・自治体はヨウ素製剤を一定数備蓄しているのです。


お父さん解説

  1. デオキシリボ核酸:deoxyribonucleic acid:DNA
  2. アポトーシス:apoptosis
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