腎臓もスゴイ

まずは食べないとね...そして出す!

要らない物は捨てないといけません。捨てなければ体中がゴミだらけになってしまうから・・・でしたね。

今回は排泄を担当するもう一つの主役、腎臓のお話です。肝腎要(かんじんかなめ)って言う言葉があるくらい大事。国語の勉強にもなります。

肝臓が要らないものを捨てる時には胆汁の中に溶かし込んで外に出しているのでした。胆汁は食べ物の中のアブラの成分を吸収する時に活躍するのですが、外に出す時にも重要。それは、肝臓から排泄される物はアブラっぽい成分である事が理由です。

一方で水に溶けやすい物はオシッコと一緒に外に出しています。血液からいろんな物質を濾し出して、要るものだけを取り戻すと言うスゴイ仕組みでこの役割を果たしているのが腎臓なのです。

濾し出す+要るものは取り返す

腎臓は背中側の腰の上にあるソラマメ型をした臓器でして、握りこぶしほどの大きさです。左右一つずつあるのが特徴的。

その主な役割は血液中に溜まった老廃物を身体の外に排出する事。能力で言うと1日あたりおよそ1700リットルの血液が腎臓を通っていくうちに180リットルの尿が濾し出されています。

え?そんなにオシッコが出るわけはない?その通りです。180Lもジャージャーと出て行ったらヒトは干からびて死んでしまいますね。

濾過されたばかりの尿は原尿と呼ばれ、そのまま排泄される訳ではありません。この原尿のうち99%強は腎臓の尿細管と呼ばれる部分で必要な電解質と一緒に血液中へ再吸収されるのです。

だから1日あたりのオシッコの容量は原尿の1%弱で約1・5L位になります。

水分が再吸収される時には電解質も一緒に再吸収され一定の濃度に保たれます。電解質と言うのは血液の中に溶け込んでいるナトリウムイオン・カリウムイオン・カルシウムイオン・塩化物イオン・リン酸イオン・重炭酸イオン等の事。

お塩、すなわち塩化ナトリウムを水に溶かした時にはナトリウムイオンと塩化物イオンに分かれて溶けましたね。

再吸収されるのは電解質だけではなくブドウ糖も同じ。ほぼ100%回収されますのでオシッコには糖は出てきません。あまりにも血液中のブドウ糖が多くて再吸収しきれずにオシッコに出てくるのは進行した糖尿病です。

さて、こうして必要なものを再吸収した結果、クレアチニン、尿素、尿酸など、窒素系老廃物と呼ばれるものが水分と共に取り残されて外に出て行きます。このようにして腎臓はオシッコを作って外に出しているのです。

血圧のコントロール

水分の排泄量が変われば体の中の水分も変わります。

体内の水分の代表格は血液ですので血圧は腎臓の働きによっても変わるらしい事は想像がつきます。加えて、腎臓はホルモンを出して積極的に血圧のコントロールをする臓器としても良く知られています。

レニンと言います。一種の酵素でしてアンジオテンシノーゲンと言う血液中のタンパク質に働きかけてアンジオテンシン‐Ⅰに変換させる作用を持ちます1

アンジオテンシン‐ⅠはACE(アンジオテンシンコンバーティングエンザイムと言うこれまた酵素)によってアンジオテンシン‐Ⅱに変換されます。これが血管を収縮させたり、交感神経を活性化させて腎臓でNa・Cl再吸収させたり、アルドステロンと言うホルモンを分泌させて総合的に血圧を上昇させる働きを持ちます。

腎臓病になると、元々の水分調節がうまくいかない事に加えてレニン系も働きにくいので血圧の調整が大変難しくなるのです。

血液の成分を作らせる

血液は血漿と呼ばれる液性の成分の他に、赤血球や白血球に代表される細胞成分で出来ています。水のようにサラサラと体の中を流れてはいますが、顕微鏡でよく見ると小さな細胞達がたくさん混じっています。

こうした細胞達の生まれ故郷は骨の内部にある骨髄と言う部分。

骨髄の中でせっせと血液の細胞が作られている時には、腎臓から分泌される造血ホルモン、すなわちエリスロポエチンが一役買っています。これは血液成分のうちの赤血球の産生を刺激する働きを持ち、これが無いとをたくさんの赤血球が出来ません。

赤血球と言うのは、その中に赤い色素成分であるヘモグロビンと言うタンパク質複合体を持っていて体の隅々にまで呼吸で取り入れた酸素を運ぶ役割を持っています。赤血球が十分に出来なければ必要な酸素が供給されず貧血になってしまいます。

慢性腎不全を患っているヒトは腎臓の機能全体が低下している、あるいは無くなっていますのでこうした造血ホルモンも上手くは出来てくれません。腎性貧血と言います。

腎不全で尿が上手く出来ない場合は血液透析という手段で血液中の老廃物を取り除く事はできますが、それ以外の機能は透析装置には当然ありません。

1990年代にはバイオテクノロジーの進歩によりこうした体内のホルモンも人工的に作る事が出来るようになりました。現在ではエリスロポエチンもタンクの中で培養した細胞たちに作らせ、精製したものを医薬品として投与する事が出来ます。

遺伝子組換えエリスロポエチンは腎性貧血の特効薬として大成功した医薬品であり、透析領域のおクスリとして無くてはならないものになっています。

丈夫な骨を作らせる

腎臓と骨はなんとなく関係無さそうに思えますが、体の仕組みでは無関係なんて物は存在しません。腎臓が無いと丈夫な骨が出来ないのです。

骨の成分としてはカルシウムが有名ですね。丈夫な骨を作るのに牛乳や小魚を摂りましょうなんて言ってせっせと君たちに食べさせたはずです。

でも、それだけで丈夫な骨が出来る訳ではありません。ビタミンDが必要なのです。

このビタミンD、紫外線を浴びると出来てきます。北欧など冬の間の日照時間が少ない地方のヒト達は少ない日差しを有効に活用するためにせっせと日光浴しているそうですね。

更に、日光浴だけでは足りませんで、最終的に腎臓によって活性化型にならないとビタミンDは働いてくれません。

もし活性型ビタミンDが作られないと小腸からのカルシウムの吸収が上手くできません。カルシウムは骨を作る他にもたくさんの重要な役割を持っているため、いつも一定以上に血液中に存在していなければなりません。

ですので血液中のカルシウム濃度が低くなると体はそれを感知して副甲状腺からPTHと言うホルモンを分泌し、骨からカルシウムを補うのです。どんどんカルシウムが血中に溶け出してしまえば骨は脆くなりますね。だから腎臓と骨は関係するのです。

腎臓が痛むと

腎臓が痛むと尿が出なくなり、老廃物や余分な水分が体内に溜まり続けるのでむくみが出たり体がだるくなったりします。尿毒症で吐き気や頭痛、食欲不振などになります。

この状態が続くと、心不全や肺水腫などの合併症を起こして生命の危機。

腎血管の狭窄などで血流量が減少すると腎臓は血圧が下がったと勘違いしてレニンが過剰に分泌され続けて高血圧になります。

エリスロポエチンが分泌できず骨髄で赤血球が出来ないのでずっと貧血状態です。

ビタミンDが出来なくて骨がドンドンと溶け出し、骨折し易くなります。

尿の生成、電解質の調節、血圧のコントロール、造血ホルモンの分泌、ビタミンの生産などなど、重要な役割を多数持つ腎臓に不具合が生ずれば大変だなという事が判りましたね。
大事にしなければなりません2


お父さん解説

  1. ここで紹介した体内の血圧調節の仕組みを総称してレニン・アンジオテンシン系と呼んでおり、高血圧のおクスリにはこの仕組みを抑える事によって薬効を出すものがある。
    代表的なおクスリとしてはアンジオテンシン‐Ⅱがレセプターに結合するのを防ぐARBと呼ばれる物。ニューロタン(ロサルタン)、ブロプレス(カンデサルタン)、ディオバン(バルサルタン)、ミカルディス(テルミサルタン)、オルメテック(オルメサルタン)などたくさんある。お父さんが薬剤師になる勉強をしていた頃のレニン系に作用するおクスリと言えば、いの一番にカプトプリル(カプトプリル)、レニベース(エナラプリル)等のACE inhibitor:ACEを阻害してアンジオテンシンが‐Ⅰから–Ⅱに変わるのを防ぐクスリが挙げられたものだが、時代は随分と変わった
  2. 腎不全患者は腎機能を出来るだけ温存するために次のような事に注意が必要。

    •  必要量を超えて過剰なタンパク質を摂取しない。→ 含窒素代謝排泄物が増加して糸球体の仕事量が増えるから。
    • カロリー計算した通りにきちんと食事を摂る。 → 低カロリー状態に陥ると、脂肪の分解とアミノ酸のエネルギー利用が増加して脱アミノが増え、含窒素代謝物が増加して糸球体の仕事量が増えるから。
    • 激しい運動を制限する →激しい運動で筋肉繊維が壊れ、筋細胞中のタンパク質が血中に漏れ出すために糸球体の仕事量が増えるから
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