18世紀の中ごろ、尿の研究をしていたお医者さんがフラスコに尿を貯めて観察していました。前の日のフラスコをそのままにしていて翌日見てみると、フラスコの中にキラキラと光るきれいな結晶が析出していました。
昔のヒトも結晶と言うのは純粋なもので出来ていると知っていましたので「おおっ!これは尿が純粋になって結晶化したものに違いない」1と信じて、ピュア2なウリン3を繋げてPureUrineと呼びました。
これが縮まってPurine(プリン)となったのです4。
実はその尿は痛風5の患者さんのものだったそうでして、析出した結晶が尿酸であった事が判ってからも、尿酸と良く似た物質をまとめてプリン体と呼ぶ様になりました。
プリン体
高尿酸血症と言う病気の原因物質は言葉の通り尿酸です。高尿酸血症が更に悪化して、関節などに尿酸が結晶として析出すると局所で炎症を起こして、とんでもなく痛い病気が痛風と言う病気です。
さて、痛風関連の話題では、セットでプリン体なる言葉が出てきます。プリン体は単一の物質を指し示す言葉では無く、似たような構造を持つ有機化合物6の総称です。尿酸もプリン体の一種に含まれます。
化学の世界では分子骨格毎に慣用名が付けられていて、炭素とそれ以外の窒素や硫黄から構成されていて環状になっている物は一種独特の名称が付けられています。化学の専門用語でこれらを複素環化合物と言います。
尿酸は複素環化合物の分類で行くとプリン骨格7を持っています。プリン骨格を持っている化合物はみんなプリン体。
プリン体。体の中でものすごく重要な役割を果たしています。
私達の遺伝情報、人間が人間であるように見える性質を規定する設計図の部品は遺伝子8と呼ばれていますが、遺伝子の情報を背負っているのは細胞の中の核9と呼ばれる器官の中に含まれる核酸10です。
核酸は、糖とリン酸と塩基と呼ばれる部品で構成されていますが、4種類ある塩基のうち2種類はピリミジン骨格11で、2種類はプリン骨格12を持っています。
核酸の重要な構成要素なので自分の体の中でも合成されますが、食べ物からもプリン体を摂取して自分の体の部品にしてしまいます。
我々は他の生命を食べて生きるしか無く13、他の生命も当然、核酸を持っていますので量の多い少ないはともかく、食べ物の中にはプリン体が有ります。
プリン体をたくさん含んだ食べ物を食べると必要以上にプリン体が体内に入る訳です。体の中に取り込まれたプリン体は主に核酸の形になりますが、細胞が壊れてばらばらになれば、一部はプリン体も再利用されます。最終的には代謝されて体外に排出されます。
体内のプリン体は、様々な酵素による代謝を受けて尿酸になり尿中に排泄されます。最後にこの形で排泄されると言うのがわかっている時、その物質を最終代謝産物と言います。
必要以上にプリン体が体内に入っていれば、最終代謝産物の尿酸も多くできるから、高尿酸血症のヒトはプリン体の摂取に気をつけましょう、と言う訳です。
プリン体追補
ヒトを含む霊長類ではプリン体の最終代謝産物は尿酸ですが14、その他多くの動物ではウリカーゼと言う酵素で尿酸を分解したり、アラントイナーゼと言う酵素で更に尿素まで分解したりするので痛風になりません。
ヒトの病気を再現できる動物モデルがないので、痛風の治療薬開発は動物実験がとても難しいのです。ダルメシアン15という犬種ではウリカーゼ活性が低いので痛風モデルにしたり、最近ではウリカーゼをノックアウトしたマウス等が用いられるようです。
お父さん解説
- ホントにこう言ったかどうかは知らない
- Pure:ピュア/純粋な
- Urine:ウリン/尿
- 大学時代、お父さんが有名な有機化学の先生から聞いたお話
- 風がそよ……と吹いただけでも痛い …と言うところから「痛風」と命名されたらしい
- 窒素の元素記号は 『N』、硫黄の元素記号は 『S』、リンの元素記号は 『P』、ちなみに炭素は 『C』、あと、酸素は『O』、水素は『H』。 生体内で働く有機化合物を構成する元素は、並べてみてCHONSP「チョンスプ」と覚えるとこれでほぼ網羅できる
- 有名どころでは コーヒー/お茶 に含まれる カフェイン も プリン骨格
- 遺伝子:gene
- 核:nuclei
- 核酸:nucleic acid
- ピリミジン骨格 : チミン(T)、シトシン(C)
- プリン骨格 :アデニン(A)、グアニン(G)
- 他の生命を食す:これが、いろんな宗教で言うところの人間の「原罪」だったりする
- サル以降では進化の過程で要らない機能としてウリカーゼを捨てた。捨てなければ 通風と言う病気は人類には無縁であったはず
- ダルメシアン:ディズニーの名作「101匹ワンちゃん」に出てくる