アレルギー

自分ではないものを見分けています

どういうわけかうちの子供達はカエルがとても大好きで、実家に帰省する度にウラの田んぼに出かけては観察に余念がありません。

小さなアマガエルだけでなく、体長5~6センチのダルマガエルを見つけた時には30分以上も見続け、さらに羽虫を捕食する瞬間を目撃しちゃったものだから更に熱が入りました。

朝/昼/夕と時間帯を変えて偵察に出るあたりは、「お、やるな」と科学する心の芽生えた子供たちを誇らしく思ったものです1

ただ、かわいそうなのは、田んぼに行く度に目を真っ赤に晴らしてカユがるところ。また雑草に触れると皮膚がガサガサにカユくなってしまいます。

アレルギー体質を持っているヒトはここに行くのは辛いとかこの季節は苦しいとかこれが食べられないとかのせいで、人生がちっとも楽しくありません。

お父さんもソノ昔、花粉症でしたのでその体質が受け継がれてしまったようです。申し訳ない。誰でも良いから早いとこ治療法を作って下さい。

アレルギーの種類

小麦とかダニとかの反応する抗原の種類による分別ではありません。もちろん、どんな抗原に対して体が異常反応してしまうのか?も重要ではありますが、ここでは、成立の機序の違いによる整理してみます2

Ⅰ型アレルギー、これは別名を即時型アレルギーと言います。花粉の季節に、花粉が鼻に飛び込んできたら、いきなりタラ~と鼻水が垂れてくるアレです。免疫反応としては特殊な部類でして、関与する抗体はIgEと言うマイナーな奴です。

IgEは抗原(例えば花粉とかですね)と特異的に引っ付くと共に、肥満細胞とか好塩基球の受容体に引っ付き、ヒスタミン、ロイコトリエン、好酸球遊走因子などが脱顆粒されて、放出されたそれら化学物質とかサイトカイン類が直接末梢の鼻の血管とか、目の表面とか気道表面に作用して、くしゃみ鼻水鼻詰まりを起こすのです。

この型の疾患には、気管支喘息とか、アレルギー性鼻炎とか、じんま疹とか、アトピー性皮膚炎とか、アレルギー性結膜炎と言った、我々にとって最もなじみの深い疾患が入ります。

Ⅱ型アレルギー、別名を細胞傷害型アレルギーと言いまして、自己免疫疾患に分類されるムツカシイ病気が多いです。

Ⅱ型アレルギーは何らかの原因で自分の細胞表面が抗原として認識されてしまうので、自分の細胞に対する抗体(IgM・IgG)が産生され自分の細胞が攻撃されてしまいます。

自分の赤血球に対する抗体が出来る「自己免疫性溶血性貧血」とか神経伝達物質受容体に抗体が出来る「重症筋無力症」とか、甲状腺関連ではホルモンの受容体の抗体が出来てしまうバセドウ氏病とか橋本病等の厄介な疾患が多いです。

Ⅲ型アレルギー、別名をアルサス型アレルギーと言います。

これも自己免疫疾患に分類される病気を引き起こすのだけれど、抗体が認識するのは可溶性抗原と言いまして、細胞表面ではなく溶けているものを認識します。

可溶性抗原が抗体と結合した事を引き金として起こる炎症反応によって組織が破壊されてしまうのです。関節リウマチとか全身性エリテマトーデスとかが代表的です。

Ⅳ型アレルギー、別名を遅延型アレルギーと言います。

抗体とか関係なく、T細胞とか、マクロファージ等の細胞性免疫が活躍します。関連する生体反応としてはアトピー性皮膚炎/ツベルクリン反応/接触性皮膚炎が有名です。

アトピーはIgE抗体産生により肥満細胞からのヒスタミン放出を機序とする即時型ですがⅣ型も混ざっていますので治療が厄介なのです。抗原と接触してないハズの夜中にもぶり返し、接触してから数時間~数日後に出るので遅延型アレルギーと呼ばれます。

もう一つの例としては、ツベルクリン反応があります。結核菌から作られる精製蛋白質を注射した時、感染した事が無ければ、タンパク質はマクロファージや好中球に食べられてゴミ処理されてしまうだけで終わってしまうので赤くなりません。

昔、結核菌に感染した事があってT細胞がそれを覚えていれば、注射したところにT細胞が集まり、サイトカインを放出して皮膚を赤くするのです。

この様に、一言でアレルギーと言っても、成立の機序に違いがあり、関わる役者達も異なります。ですから、対処の方法も型が違う毎に異なっているのです。

スギ花粉

アレルギーと言えば花粉症と言うくらい日本ではお馴染みです。

その昔アレルギーの研究をするのであれば実験材料としてダニとか花粉を大量に集めなければならないハズだと思い込み、スギの花粉を取りに山の中に出かけた事があります。

冷え込みが激しくえらい難儀して良さそうな枝ぶりの雄花3を戴いてきた記憶があります。

でかいビニール袋に入れて振り回すと黄色の微粒子が袋の底にビッシリと溜まり、かき集めたら大試験管にして3本、およそ200グラムの花粉が取れました。

さあタンパク質でも抽出しようかと実験室でフタを開けたら廻りから非難轟々。頼むからここではやってくれるなと言われ、泣く泣く抽出を諦めた事が有ります。

その後、その試験管を処分した記憶は無いので「これ何だろう?」と知らずにフタを空けたヒトがたまたま花粉症だったらショック死するのではないかと心配しています。

ヒスタミン

お父さんは抗ヒスタミン薬と言う薬をテーマにして研究していた事があります。

ヒスタミンと言うのは肥満細胞4から放出されて鼻とか目とか皮膚の神経に作用してカユミを出します。また、血管に作用するとそれを拡張させ、血管の壁の詰まり具合を緩くするので、水分がダダ漏れになります。

だから、花粉症とかでは目が真っ赤になり、鼻水が垂れて、くしゃみ爆発となるのです。

局所での炎症は白血球を寄せ集めてしまい、鼻の中がむくむので鼻詰まりも同時に発生します。そこで、対症療法としてはヒスタミンが働く受容体をブロックしてしまえばOK。と言う訳で、抗ヒスタミン薬と言うのは昔から大活躍していました。

でも、眠くなるのが欠点でして、眠くならない薬と言うのを探索していました。

昔の抗ヒスタミン薬は脂溶性5が高く、血中の医薬品が簡単に脳の中に入ってしまいます。

血液脳関門(BBB)6と言いまして、通常であれば変なものが脳の中に入らないように生体ではうまくバリアーが効いているところを乗り越えてしまうのです。

脳の中に抗ヒスタミン剤が入らなければ眠くなりようがありません。

そこで、牛の脳の中からBBBの機能を持つ血管内皮細胞と言うのを取り出して培養し、単一層の精密な培養細胞シートを作り出して薬物透過性を測定するというマニアックな実験系を教えてもらってやっていました7。実験材料はもちろん「牛の脳ミソ」。

食肉センターに通い、採れたての湯気の出ている様な脳ミソを戴きます。今度はキンキンに冷やした保冷バットの上で慎重に硬膜を剥き、脳をカミソリで細かく切り刻んだら、超遠心で血管内皮細胞だけ密度の違いで分離して培養する訳です。

食肉センターではの滅多に見られない「と殺」の場面を一回だけ見させてもらいました。

体重800kgを超える肉牛を電気ショックで昏倒させ、頚動脈をスパッと切られて何十リットルもの血液が床の溝に流れ去ります。

その後、牛刀と言って外科医の使うメスと同じくらいの切れ味で、大きさがその10倍位ある刃物を持った5人くらいのヒトがあっという間に皮を剥いて、臓器ごとに30分くらいでバラバラにしていく様子を見ていました8

血抜きをする前は「かわいそう」と思って見ていましたが、枝肉となって天井から吊るされたのを見た瞬間「うまそう」に変わった自分の感情のいい加減さに笑ったのを覚えています。

IgEとアスカリス

抗ヒスタミン薬の研究をするにはⅠ型アレルギーを起こす様な実験動物モデルを用意しなければなりません。抗原に暴露させたら、効率良く肥満細胞からヒスタミンを放出し、鼻水とか皮膚の反応とか、喘息とかを起こしてくれる様な系が必要です。

重要なのが何を抗原として用いるか?でした。既に先人の知恵によりⅠ型アレルギーを引き起こさせるのに都合が良いのはアスカリス9だと判っていました。

これを使って感作すると通常のIgGではなく、Ⅰ型アレルギー反応には必須のIgE抗体が誘導されるのです。

アスカリスとは豚の回腸に寄生しているカイチュウの事。またもや食肉センターに行き、豚の回腸をもらいタテにかっさばいてウニョロウニョロと動き回るアスカリスを捕まえます。

実験室に持って帰って良く洗った後に、緩衝液と一緒にミキサーで粉砕してやるとアスカリス液の出来上がり。これをマイナス180℃のディープフリーザーに保存してやればいつでも使いたい時に溶かして使えます。

当時としては1頭の豚から20~30匹捕れたのですが、現在では綺麗な豚舎で衛生的に飼育される様になった事が原因で、困った事にたくさん取れなくなってしまいました。ですから現在ではとても貴重品になっています。


お父さん解説

  1. こういうのをバカ親と言う
  2. お父さんがアレルギーの勉強をしたのはもうカレこれ20年以上前なので既に中身を忘れてしまっている。
  3. 雄花:スギには雌雄が有ります
  4. 肥満細胞:Mast Cell
  5. 脂溶性:Hydrophobicity
    hydro とは 「水」の事。一方phobic とは 「きらい」と言う事。すなわち、水を嫌う と言う事で脂溶性と言っている訳
  6. 血液脳関門:Blood Brain Barrier:BBB
  7. ある大学に居候して、3週間ほどトレーニングし、持ち帰って再現してみるという事をしていた
  8. 牛刀を使っているうちに牛の脂がつくと切れ味が落ちる。彼らは常に脂をふき取り、手に持った砥石で牛刀を研ぎながら作業をしていた。
    お父さんと話をする時もひたすら牛刀を研ぎながら睨まれていたので、何か失礼なことを言ったら殺されるんではないかと非常に恐ろしかった
  9. アスカリス:体長10~15㎝位、太さは5㎜~8㎜位
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