免疫を担当する細胞で良く名前を聞くのはリンパ球です。健康診断などで血液学的検査の結果は眼にしますから、名前は見たり聞いたりした事はあるはず。
リンパ球は白血球の中におよそ20~50%現れて来るのですが中身はもっと細かく分かれています。
メジャーな分け方は、Bリンパ球(B細胞)とTリンパ球(T細胞)。おおまかにはB細胞は抗体を作って外来抗原から体を守っています。T細胞は外敵に直接結合したり、免疫系全体を制御したりしています。
それぞれに違う役割を受け持つ細胞なので名前が異なるのですが、見た目では電子顕微鏡で丹念に調べてもその違いはわかりません1。
B細胞とT細胞
お父さんがアイドルの顔と名前を覚えるのはほぼ不可能です。SKE482と言う人気グループはよく知られた存在ですが名前が全く判りません。
それもそのはず、40名以上で構成されるグループで3つのチームの混成部隊です。卒業していくメンバーも居れば研究生から昇格してくるコも居て新陳代謝が激しい。しかも選挙の結果次第では降格だってされてしまうとても厳しい世界。
暫くウォッチし損ねるともう知らないメンバーが居ます。
でも熱意3次第ではどのコもみんな同じに見えてしまう状態を脱することが可能です。
全ての細胞が同じに見えてしまうリンパ球ですが、蛍光抗体法と言う方法で色を付けてあげると違いが判ります。
例えば、CD4と言う分子に引っ付く抗体を使うと、その分子を持っている細胞だけをピカリと光らせる事が出来ます。抗CD4抗体を使ったときに細胞が光れば「あ~それはT細胞だったのだね」と判る訳です。
また、抗CD20抗体を使って染めあげた時に、ピカッと光れば表面にCD20分子を持つB細胞です。
B細胞の機能は異物が体内に入って来た時に、それにくっついて排除する抗体を作る事です。
ある時ニワトリに男性ホルモンの一種、テストステロンを与えたらどうなるかと実験をしたヒトが居まして、お尻のところのファブリキウス嚢と呼ばれるリンパ節が無くなる事を発見しました。
これが無くなっちゃったら抗体を作る事も出来なくなってしまったのです。
でも、リンパ球は血中に普通に見つかるし他のニワトリの皮膚を移植するとちゃんと拒絶できるので、細胞性免疫は普通に生きている。だから、抗体を作る役目のリンパ球だけが無くなったのだと解釈しました。
このリンパ球の事をファブリキウス嚢(Bursa Fabricii)の頭文字をとって、B細胞と呼ぶ様になりました4。
一方、移植された皮膚を拒絶する時に働く細胞性免疫は胸腺(thymus)の中で成熟する事が判って来たのでやっぱり頭文字をとってT細胞になりました。
細胞の形からは手がかりが全く得られなかったのだけれど持っている分子と果たす機能を調べる事ができるようになり、免疫学は20世紀末に爆発的に発展したのです。これが熱意。
免疫担当細胞
B細胞は抗体を出す細胞、T細胞は直接敵を叩く細胞との単純な理解で始まった細胞免疫学ですが、この両者の関係にただならぬものが見つかったのは1960年代です。
生まれてすぐに胸腺を取ったマウスではT細胞が成熟できなくなってリンパ球はほぼB細胞だけになります。ところがこいつは抗体もできなくなっていました。
だから、T細胞にはB細胞の抗体産生を助ける働きがある事が判ったのです。これをT細胞のヘルパー作用と言い、司る細胞をヘルパーT細胞5と呼んでそれまでの直接敵を叩くキラー作用(殺し屋)と区別するようになりました。
更に免疫系全体を亢進させるか抑制させるかを判断し司令官の役割を果たす制御性T細胞6と言うのも見つかり、免疫系の奥深さがドンドンと明らかになっていきました。
SKE48のコ達は、チームS、チームKⅡ7、チームEの3つが集まった混成部隊ですが、誰がどのチームに属するかはお父さんにはさっぱり判りません。
免疫系も同じ8。細胞の機能ごとに持っている分子が違っていたり、放出するホルモンのような物質(サイトカイン9)の違いによって分けるしかないので見分けるのには特殊な才能10が必要なのです。
B細胞なんかさらにバラバラです。イムノグロブリン(Ig)11を分泌する細胞ですが、一個一個の細胞は一種類の抗原に対するIgしか作れません。
Igは働く場所とそのカタチで、IgG・IgM・IgD・IgA・IgEの五つにクラスが分かれていて一番普通で量が多いのがIgGです。花粉症で有名なのはIgE。抗体としての機能の本質は抗原との特異的な結合であるのはどれも同じですが、どのクラスのIgを出しているかは分析してみない限り判りません。
またB細胞が成熟していく過程で最初に出すのはIgMですが、抗原の種類や侵入場所などによって分泌するIgのクラスが変化する、こういうのをクラススイッチと呼びチームSからチームEへと言うようにメンバー異動が行われるのに良く似ています12。
さて、免疫担当細胞は何もB細胞やT細胞に限りません。BでもTでもない、NK細胞13と言うのや、樹状細胞14、マクロファージ15、あと、単球、好塩基球、好酸球、好中球なんてのも立派な免疫系の一員です1617。
免疫チーム
免疫系ではたくさんの役者がそれぞれ好き勝手に働いている訳ではありません。様々な機能を担うのは個々の細胞ですが、それが大勢集まった全体として免疫と言うシステムが上手く働く様にネットワークを構成しています。
敵を食作用により細胞内に取り込みこんな敵が入って来たよと知らせる細胞、その情報を受け取ってB細胞に抗体を作れと指令を出す細胞、敵に直接攻撃をかける細胞、抗体がくっついた相手を認識して別の武器でトドメをさす細胞、と言うたくさんの役割の集合体で敵に立ち向かうのです。
情報は細胞同士がくっついて直接やり取りする場合もありますが、ある細胞が情報を取って活性化されるとその細胞がホルモンの様な物質を放出して他の細胞に知らせる信号も体内を飛び交います。
このホルモンのような物質の事をサイトカインと言います。細胞同士がサイトカインを通しておしゃべりをする様なイメージでしょうか。
細胞がたくさん、その役割も多彩、係わる分子がたくさん、そして複雑なネットワーク構成で総合的に外部と戦うのが免疫系です。チームワークがとても大事なのです。
詳細に個々の機能を見ていくのも、それはそれで楽しいのですが到底専門家の様にはなれません。ですから手始めに免疫系全体でどんな事をやっているかをウスボンヤリとでも捉える事が出来れば良いのではないかとお父さんは思っています。
『会いに行けるアイドル』として2005年から秋葉原を拠点に活動しているアイドルグループ、AKB48は常時40数名のメンバーを抱えており、チームA、K、Bの3つからできていますが、その全てのこの所属と名前を把握するのと同じ位、免疫系は最初のハードルが高いのだと言う考察が出来ます。
でも、全てのメンバーの顔と名前が一致せず、全員のプロフィールが頭に入っていなかったとしてもそのユニットのステージが楽しめるではないですか。それと同じです18。
ただ、免疫をもっともっと詳しく知りたいと思った時には、好きになる事が一番の近道であるというのは間違いなさそうです。
免疫の重要性
抗生物質が手軽に入手できる様になり、感染症に立ち向かえるようになったのは人類の歴史ではごく最近の話です。
それまでは感染症が死因のトップであった事を考えれば長生きするのに免疫系が不可欠でありますし、免疫が無いとどれだけ悲惨かと言うのも免疫不全症を見れば判ります。
例えば、後天性免疫不全症候群(AIDS)19では、普通のヒトであれば滅多に罹らないカポシ肉腫であるとかカリニ肺炎と言う日和見感染症でバタバタと死んでしまいます。
他にも先天性で免疫不全となる病気も知られているのですが、その場合は骨髄移植で新たに免疫系を復活させる事が出来る場合を除いて一生を無菌室で終えなければなりません20。
ただ、免疫系が異常に活性化されると今度は膠原病やリウマチ等の自己免疫疾患と呼ばれる難病や、例え難病でなくとも花粉アレルギー症等を引き起こす事が知られています。
この様に、シビアなバランスの上で成り立っていまして、無かったら困るし、有りすぎても困る。どちらかに行き過ぎると病気になる、言わば両刃の剣なのであります。
お父さん解説
- 普通にHE染色しても細胞質の大部分を占めるくらいの大きな核を持ち全体が青っぽく染まっているのが見えるだけで違いは全く判らない
- 免疫関係の勉強をしようとすると出演するいろいろな分子や免疫を担当する細胞がとても多くて「コリャ大変だぞ」と感じる。何かに良く似ているゾと思ったら、こんなのが有った
- ココで言う「熱意」とは何か?
- ヒトにはファブリキウス嚢は無いが名前だけは踏襲している
- ヘルパーT細胞:helper Tcell
- 制御性T細胞:regulatory T cell 、Treg とも呼ばれる
- チームKⅡ : モチロン AKB48にはチームKがあるから。
- 同じか?
- サイトカイン:cytokine
- ココで言う、「特殊な才能」とは何か?
- イムノグロブリン:immunoglobulin
- 似ているのか?
- ナチュラルキラー細胞:NK cell:natural killer cell、dendritic cell
- 樹状細胞:dendritic cell(T細胞を活性化する抗原提示細胞)
- macrophage : マクロファージ、 貪食細胞、 大食細胞
- すなわち、SKE48、AKB48 だけでなく、NMB48 もアルよと言う事
- 免疫系と言うのは臓器ではなく一個一個の細胞が主役。消化器系なら、口腔、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸…と言う様に大まかに臓器別に理解をして行くことが出来るが、それとは大分様相が違う
- 同じか?
- 後天性免疫不全症候群:AIDS:acquired immunodeficiency syndrome
- 先天性免疫不全症の内、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症と言う病気は、ADAを補ってやれば免疫系も復活する。ADA欠損に対しては遺伝子治療と言う選択肢があり、人類初の遺伝子治療はこの病気に対して行われた