ドキドキ

何でも運びます

自動体外式除細動器(AED)と言うのは、いろんな場所で目にする様になりました。お父さんが通勤でお世話になっている駅にも設置1されています。

見かける度に蓋を開けてイジってみたい衝動に襲われますが、イザという時に使えなくなってしまっては元も子もありません。指をくわえてグッと我慢しています。

AEDとECG

AEDは突然の心臓停止に陥ったヒトを救う医療機器です。多くの場合で心室細動(VF)2と呼ばれるものが原因。

これは心臓が不規則に痙攣するような状態の事で、こうなると心臓本来のポンプ機能が果たせません。この突然の心臓停止が原因で年間2万人以上の人が亡くなっていますから、私達が交通事故に遭うよりも遭遇する確率は高いのです。

そして心臓停止からの処置が1分遅れる毎に救命率が10%ずつ下がっていくのだそうで一刻も早い処置が必要なのです3

心室細動の最も有効な治療法は電気ショックによる除細動です。テレビの医療ドラマなどで救急医がアイロンみたいな電極を両手に持って「20ジュール!」とか言っているアレです。

AEDは、2004年7月1日から医師や救急救命士だけでなく現場に居合わせた一般のヒトでも除細動できるようにと設置が公共施設を中心に一気に広がりました。

使い方はとても簡単。電源を入れたら音声ガイドに従って電極のパッドを張ったりボタンを押したりするだけ。機種によっては更に心臓マッサージや人工呼吸などの救命蘇生法のガイドもやってくれます。

電極パッドは心臓を挟み込むように胸の右上と左脇に貼り付けるとAEDによる患者状態の解析が始まります。

この時AEDは貼った電極を通して心電図をとっているのです。そして解析の結果、電気ショックによる除細動が必要と判断した場合には音声ガイドで通電ボタンを押すようにとの指示が出るのです。

だから間違って健康なヒトに除細動してしまう心配はありません4

肩を叩くとか、声をかけて意識があるとかの確認によって、呼びかけに反応しない・息をしていない・脈が取れない事が確認できたら、119番通報すると同時にAEDを探して持ってきてもらえるように大声で助けを呼ぶのが良いでしょう。

ECG

心臓が規則正しく拍動しているかどうか調べる最も基本的な検査は心電図(ECG)検査です。寝ている時はゆっくりと、起きて運動している時は早く拍動しています。

好きなヒトの前に出たり大勢の前で何か発表する時等にも自律神経系の働きによりドキドキしていますのでスピードはあまり意識的にコントロールできません。

ただし、ゆっくりだろうが早くだろうが一回のドッキンの中で心臓がやっている仕事はみんな同じで、拍動が早くなることで単位時間当たりの拍出量が増えているだけです。

ECG波形と言うのは心臓の電位の変化を刻々と記録したものです5。記録された波形には特徴的なピークが現れており。それぞれに名前が付いています。最初の小さな山がP、次の小さな谷がQ、以降、アルファベット順にR、S、T、たまーにU、後はひたすらこれの繰り返し6

なおR波が一番大きくて測りやすいので、R波と次のR波の間隔を測定して心拍数に換算するのです(これをRR間隔と言います)。

心臓は上半分の心房7と呼ばれる部分と下半分の心室8で出来ています。全身や肺から帰ってきた血液は一端心房に集められ、心室に送られた後にまた全身や肺へと送り出されます9

ドッキンドッキンの「ドッ」が最初のP波に相当し、心房から心室に血液が送られた時の音です。そして「キン」の部分は心室から全身に血液が送られた時の音で、ECG上ではQRS波に相当します。

心房から心室に血液を送る時は隣の部屋に移すだけなので力はそんなにたくさん必要ありません。だから電気信号も小さくてP波の様に小さな山です。

心室から全身に血液を送るときは強い力で押し出さなければならないので、電気信号上もQRS波の様に大きな波形になります。T波は一端心臓の興奮が収まる時に現れるそうです。

さて、何故にPからなのか?

その昔、ECGの測定を初めて実施10したのはオランダのウイリアムアイントーベン先生でした。1903年の事です。

最初に出てくる=PrimaryだからP波としました。でも同じく波を解析する地震学の先生達も地震の第1波をP波と呼び、第2波をS波(Secondaryだから)と使っていました。ですので全く同じにしたら芸が無いと考えてPから次はアルファベット順にしたらしいです。

VF/TdP/QT延長と医薬品開発

近年、医薬品の開発において心電図の測定はとても重要な調査項目になりました。例え心臓への作用があるおクスリでなくとも、こうした突然の心停止を誘発する可能性が見つかったからです。

VFに至る前にやはり心臓のポンプ機能がうまく働かないTdP11と言う状態が現れる場合があります。これも致死的な不整脈なのですが、TdPに至る前にその徴候が現れる事があります。

その徴候と言うのがQT間隔です。Q波のピークとT波のピークの間が長くなる事がTdPの発生と相関していそうだぞ、と言う事が判り、ヒトに投与する新しいおクスリは、全て綿密な心電図検査をする事になりました。

QT間隔の延長が起こるクスリの内、ほんの僅かですがTdPを引き起こす可能性が否定できません。QT延長→TdP→VFと言うように重症化して行くのでQT延長の認められるクスリは承認しないようにしようという風になったのです。

医薬品の安全性はこのような観点からも守られる様になっているのです12


お父さん解説

  1. 自動体外式除細動器:Automated External Defibrillator:AED
    駅でお父さんが見かけるのはオランダPHILIPS社製のAEDをフクダ電子が日本仕様に換装した最新鋭機FR-2。 AEDの入っているボックスを開けて赤いキャリーバッグを開けると患者さんに装着する電気パッドと共にHEARTSTARTFR-2が現れるはず
  2. 心室細動:ventricular fibrillation:VF
  3. VFになると脳や心臓自身そして全身の臓器に酸素や栄養が届かず数分で死に至る。そのためAEDが到着するまでの間に胸骨圧迫で血液を循環させ、人工呼吸を併用して少ないながらも血液中に酸素を取り入れる事は救命率を上げる上でとても重要。
    ① あごを上げて気道を確保し、呼吸が無ければ鼻を塞いで口から息を2回吹き込む
    ② その後、胸骨圧迫を30回行う
    ③ 二つを1サイクルとして2分間で5サイクル繰り返す
  4. AEDの使用法は共通ガイドラインに従って作られているので基本的にどこのメーカーのものでも一緒
  5. 心電図のチャートでは0.1mVの振幅を1mmに、チャートの移動速度を毎秒25mmにしてある。これは、ECGが開発された当初からずっと同じ
  6. 例えば、脳波の世界では、α波・β波・θ波・δ波の様に、特徴的な波形にはそれぞれ名前が付けられている
  7. 心房:Atrium
  8. 心室:Ventricle
  9. ヒトなどの高等生物の心臓では上の部屋(心房)と下の部屋(心室)がある。さらに左と右の部屋に分かれている。
    血液の流れる順番は、左心室→全身→右心房→右心室→肺→左心房→左心室 のようにグルグル巡っている。
    高等動物では「2心房2心室」の形式だが、貝類は「2心房1心室」だったり、もっと下等になると「1心房1心室」だったりする
  10. 当時の心電計は大学の実験室を丸々二つ占領する巨大な装置だった。そのため大学病院と実験室の間に1500mの電線を引っ張って信号を送ったとの事。 現在では一週間以上も体に取り付けてECGを計り続けるホルター心電計なるものも出来ている
  11. Torsade de Pointes:TdP『トゥルサードゥ(ドゥ)ポゥワァァァントゥ』とモゴモゴと口の中に溜めながら自分の表情が外国人ぽくなるようにイメージして発音する。フランス語。TdPと医薬品開発は切っても切れない
  12. 医薬品の開発や製造販売の国際的ガイドラインには(ICHと言う)薬による不整脈をきちんと調べるように定められている。 “ThoroughQT/QTc study”と言い、心電図を調べてみた結果、安全性が疑われると承認が遅れたり、使用が制限されたり、はたまた売ってはいけなくなったりもする
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