献血のススメ

何でも運びます

何がきっかけだったかは忘れてしまいましたが、お父さんは10年程前からセッセと献血1に通うようになりました。それも、ただ血を抜くだけではなく、必要な血漿成分を取り出した後に血球成分を戻してくれる成分献血です2

全血の献血だと最低でも12週間の間隔を空けないといけません。成分献血ならば2週間ごとに行って良いのです。

かつて中学生時代、病院で血液検査をされた時、わずか10mLの血が抜けて行く様子を観ていて倒れた3時の事を思えば長足の進歩。人間、変わろうと思えば結構変われるものです。

貧血の検査は当然の事ながら、生化学検査してくれるので健康チェックも可能。ジュース類は飲み放題で、ドーナツとか、暑い日はアイスキャンディーまでくれる4。1時間程度の献血中はリクライニングするベッドの上でマンガ読んだり、DVDを観ながらのんびり過ごせるのでくつろげます。

注射針を刺すのを2回我慢するだけでOK。ホッと一息つきたいときに献血ルームはお勧めです。

十六歳になったら

血液を採取する時は、静脈の血管を捜しだして「プスッ」と刺すのですが、血管が堅かったり細かったりすると一発で入ってくれません。

お父さんは、かつて研究材料に自分の血液を使う事が多かったので翼状針と言う針を使って自分で採血をしていました。動物実験でもたくさんの針を使いましたので注射には結構自信があります。

注射針と言うのは、その太さをゲージ(G)と言う単位で表し、動物用ですと、細いのは26G(0.45mm)、太くてもせいぜい21G(0.80mm)です。初めて献血をしたのは26歳頃だったと思うのですが、採血の針が結構太くてちょっとビビッていました。

心を落ち着けようと、看護婦さん5に「太いですね~!18Gですか?」とひたすら明るく声をかけたら「フフフ….もっとよ」とか言われて血の気が引いたのを覚えています6

でも、慣れてしまえばどうと言う事もありません。各種血液検査もしてもらえます。一番は何か良い事をしたような気がして、献血した後に世の中が明るく見える事です。

注射針はランセットポイント7と言って、刺通抵抗を小さくするために針先の角度を2段にしてあるからあまり痛くありません。

献血、必要なヒトが世の中に必ず居ますし、最も身近で簡単なボランティアです。君たちが十六歳になったら連れて行きますよ。

貧血の検査

先生の問診と血圧チェックが終わると、本採血の前に21Gの針で事前採血をします。血液比重を調べたり、自動検査器で血球数調べたり、血液型が間違っていないかどうか調べたりするのですが、この時にヘモグロビンの量もチェックします8

貧血のヒトから血を貰う訳にはいかないですから。全血献血か成分献血か、あるいは男性か女性かで異なりますが、概ね12g/dL以上あればOK。ここをクリアすれば晴れて採血室へと呼ばれます。

血液の行方

献血で集められた血液は、手術時等の輸血として用いられます。全血もそうですし、濃厚赤血球や血小板製剤として目的に応じて成分輸血としても使われるものも有ります。

でも、それだけではありません。成分献血で集められた血漿は血漿分画製剤として製薬会社で製剤化されます。ヒト血清アルブミン、フィブリノーゲン、トロンビン、ヒト免疫グロブリン、乾燥血液凝固因子Ⅸ、Ⅷ、乾燥濃縮アンチトロンビンⅢ、等が有ります。

ヒト由来の血漿を原料にしている都合上、感染の危険性は100%除かれた訳ではありませんが、ウイルス除去・不活化技術の進展によって安全性はとても高くなりました。

ただ、未知のウイルス感染の可能性は完璧には排除できない9事から、これらの血液製剤に関する行政の規制は通常の医薬品に比べて厳しくなっています。

人工赤血球

輸血用血液の泣き所はこうした献血に頼らなければならない部分の他に、保存が利かない事があります。

集められた貴重な血液ですが、現状では赤血球で3週間、血小板では3日しかもちません。使用期限が切れてしまえば廃棄になってしまうのです。もったいない。

ただ、幸いにも近年では採血した貴重な血液を研究目的で活用できる道も拓けました。

リポソームと言う脂質二重膜でできた袋の中に、赤血球から取り出したヘモグロビンを詰め込んで人工赤血球を作り出したり、アルブミンと言うタンパク質にヘモグロビンを引っ付けた完全合成型人工酸素運搬体の臨床試験を計画していたりします。

こうした人工赤血球は、2~3年の保存が利くので、東日本大震災の時のような緊急時に大量に供給できる事、製造の過程でウイルスを不活化できるので感染リスクが減る事、血液型を考慮する必要が無いので迅速に輸血できる事、普通の赤血球よりもサイズを小さくできるので、脳梗塞などの発生時にも局所へ酸素を届ける事ができる、等がメリットとして挙げられます。

2000年代に入ってきて俄かに実現性が出てきた人工赤血球であり、どの会社も2010年には実用化だ!と鼻息が荒かったのですが、現時点であまりニュースにはなっていません。

まだまだ解決しなければならない課題が多いようでして、実用化までにはもう少し時間がかかりそうです10


お父さん解説

  1. 2011年に厚生労働省が将来の血液需要供給の状況で警鐘を出した。ガンや心臓病の手術などで輸血が必要な50歳以上の高齢者が増え、献血する若者が居なくなり、16年後の2027年には約100万人分の血液が足りなくなるとの試算。 献血離れに歯止めをかけようと、都内の献血ルームでは、あの手この手のサービスが行われているらしい。ネイリストがマニキュアを塗るサービス(新宿)、タロットや手相占い(有楽町)、「ご主人様、お帰りなさいませ」とメイド姿で献血を終えた人の手をもみほぐすサービス(秋葉原)も一時期やっていた。もちろんそれが狙いで献血に通っていたわけではない
  2. 成分献血で、なぜ針が1本で済むかと言うと、抜いたトコロから血球成分を戻してくれるから。「超」感覚的に言うと、抜いている時はエレベーターで落ちているカンジ、逆に血球を入れている時は昇っているカンジ。 いや、単なる感覚だってば…
  3. 血が抜けて行く様子を観ていて倒れた → 迷走神経反射と言う
  4. 家から近い事もあり、お父さんのお勧めは吉祥寺の献血ルームです。ミスタードーナツのチョコリングが貰えるし、夏はガリガリ君も出ました。最近は池袋も充実してきている
  5. 看護婦さん →  当時はまだ「看護師」ではなかった
  6. 実際の針の太さは14~16Gらしい。まだ確かめていない
  7. ランセットポイント:注射針の微細加工では、日本は最先端を走っており、ニプロとかテルモ等の日本のメーカーは海外でも名の通った存在である
  8. 臨床検査データとしては、もう少し詳細なものが幾つか有る
    ■赤血球数/Red Blood Cell(RBC)血液学的検査の超基本的な検査です。貧血や多血症の診断に用いられ、1μLあたり何個あるかで評価
    ■ヘモグロビン/hemoglobin(Hb)血液中の血色素であるヘモグロビン量を測定する検査。酸素運搬の主役
    ■ヘマトクリット/hematocrit(Ht)血液中に占める血球成分の全容積をパーセント表示した値です。血球成分のほとんどは赤血球なので、赤血球の容積比と捉えてもらって良いです。語源はギリシャ語のαίματος(血)及びκριτής(審判)。「血の審判」とは恐ろしい
  9. AIDSだって、1970年代には全く知られていなかった。元々はサルのウイルスが突然変異でヒトに感染するようになり、ある日突然、世界中に感染が拡がっている事が判明した。 あのような事がもう発生しないとは誰も言えないし誰も判らない
  10. iPS細胞を使用した造血幹細胞からの分化で大量の赤血球を作る方が早く実用化してしまうかも知れないね
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