中性脂肪

まずは食べないとね...そして出す!

中性脂肪は体が余計に取ったエネルギーを貯め込んで、いざと言う時に使うための分子です。

血中だけでなく脂肪細胞と呼ばれる特殊な細胞中によく貯め込まれています。お肉のアブラミを想像してもらえばОK。

豚肉のしょうが焼きはご飯の友1ですが、あのアブラミがあるからあんなにもおいしいのです。

中性脂肪は脂質の一種である脂肪酸が3個と、糖の一種であるグリセリンが1個くっついてできたもの。

元々の脂質が脂肪酸と言う酸性物質なのですが、くっつく時に性質が変わって中性になるから日本語ではこの名前になりました。誰が名付けたかは謎です。

英語表記ではトリグリセリド2と言います。

トリ~(tri-)と言うのは3個の~ と言う時の接頭語で、脂肪酸3個だから。英語では性質がどうとかではなく、その構造から名前がついている所が違っています。

エネルギー代謝

中性脂肪は体の中に入ってきたエネルギーを効率良く貯めるためのもので、別に脂肪だけを食べ過ぎたから貯まるものでもありません。

ご飯(糖質)でもお肉(タンパク質)でも取りすぎれば、余計な分を脂肪に変換して溜め込みます3

こういうのもエネルギー代謝の一つの例です。

溜め込んだ中性脂肪はアドレナリンの働きでグリセリンと脂肪酸という元の形に分解され、体が飢餓状態になった時に貴重なエネルギー源として利用されます。

分解されて血中に放出された脂肪酸は、他の臓器に運ばれて、細胞の中に取り込まれエネルギーとして利用されます。

取り込まれた脂肪酸はβ酸化という、これまた重要な代謝経路で利用されるのです。

エステル化

マーガリンや天ぷら油など、油製品の成分表示を繁々と見ることはあまり無いかもしれませんが、脂質関連は変な名前が怒涛の勢いで出てきます。

リノール酸、リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸・・・などなど食油製品の成分表示を見てみると、コマーシャルなんかで聞いた事が有る名前が書いてあります。

「●●●酸」と有るように、一番簡単な構造の脂質は酸性なのです。

信じられないかもしれませんが、調味料のお酢、すなわち酢酸とは分子構造的に同じ仲間です。何が酢酸と違うかと言うと、その炭素でできた鎖の長さだけ。

脂肪酸の分子の中にはカルボン酸4と呼ばれる部分と、炭素の鎖でできた部分があり、鎖が長かろうが短かろうが、全てひっくるめて脂肪酸5と言います。

グリセリンは糖の一種で、分子の中に水酸基6を持っています。これはカルボン酸と手をつなぐ事ができるのですが、グリセリンは3つの-OHを持つので脂肪酸3つと繋がります。

化学の言葉で-OHと-COOHが手を繋ぐ事をエステル化7すると言います。

もし、中性脂肪の定義を聞かれたらグリセリンの脂肪酸エステルですねと答えて下さい。

ただ、エステル化している脂肪酸の長さ(炭素の鎖の数の事です)はマチマチ8です。

モノジトリテトラ

せっかくトリグリセリドが出てきましたので、分子の名前を表すときの数の話をしましょう。

名前の頭に何かしら数にまつわる単語がひっついて、中身を示す接頭語には次の様なのようなものがあります。

1 モノ、2 ジ、ダイ、3 トリ、4 テトラ、5 ペンタ、
6 ヘキサ、7 ヘプタ、8 オクタ、9 ノナ、10 デカ、・・・9

昔々のギリシャ語由来で、身近な所でもたまに使われるので、聞いた事がある言葉もあるでしょう。

例えばね、
・一色の写真だから「モノクローム」、
・線路が一本だから「モノレール」、
・音が片方なのは 「モノラル」、
・独り占めという意味のゲーム「モノポリー」、
・2人の板ばさみは「ジレンマ」、
・三角だから「トライアングル」、
・3人組は「トリオ」、
・3つの競技を続けてやるから「トライアスロン」10
・四面体だから「テトラパック」、
・海で見ます 4本足の 「テトラポッド」、
・アメリカ国防総省 五角形の「ペンタゴン」、
・プリズムが五角形の「ペンタックス」、
・6人でやるクイズは「ヘキサゴン」
・足が8本あるので「オクトパス」、
・8音階ですから「オクターブ」
・陸上の10種競技は「デカスロン」、
・物語集の十日物語は「デカメロン」

当然まだまだあります
11 ウンデカ、12 ドデカ、13 トリデカ、14 テトラデカ、15 ペンタデカ、
16 ヘキサデカ、17 ヘプタデカ、18 オクタデカ、19 ノナデカ、
20 エイコサ、21 ヘンエイコサ、22 ドコサ、23 トリコサ、・・・
30 トリアコンタ、40 テトラコンタ、50 ペンタコンタ、
60 ヘキサコンタ、70 ヘプタコンタ、80 オクタコンタ、90 ノナコンタ、
100 へクタ11、200 ジクタ、300 トリクタ、400 テトラクタ、
500 ペンタクタ、600 ヘキサクタ、700 ヘプタクタ、800 オクタクタ、
900 ノナクタ、1000 キリア、 キラ・・・

ギリシャ語を使って数を読んでみると、75はペンタヘプタコンタ、468はオクタヘキサコンタテトラクタの様になります12

よ~く耳にするのは、健康食品関連で脂肪酸を示す時の呼び方です。

例えば、エイコサペンタエン酸は炭素が20個で二重結合が5個ある脂肪酸です。さらに、ドコサヘキサエン酸は炭素が22個で二重結合が6個ある脂肪酸です13。(二重結合のお話はまた別の機会にしましょう)

また、数えられないくらいのたくさんの事はポリ14と言います。高分子の事をポリマーと言ったりしますよね。

生化学分野ではペプチドを呼ぶ時に、アミノ酸10個繋がっているとしたらデカペプチド、たくさんのアミノ酸から構成されていればポリペプチドと使います。

骨格を形成する炭素の数で化合物の名前が決まったりしますので、ギリシャ語の接頭語は必須科目。でも、そんなに難しくありません。

ギリシャ語の数の数え方、結構身近にあります15

ギリシャ倍数

大きなサイズの物を示す時にキロメートルとかキログラムのように単位の前にキロが付くのを小学校で教わったはず。

逆に小さなスケールの物を示す時にはミリメートルとかミリグラムになりました。実はあれもギリシャ語由来です。

単位の前に何か付く事でそれが何倍であるのか、はたまた何分の一であるのかを示しているのです。キロなら千倍、ミリなら千分の一ですね。

現在世界的に通用しているSI単位系では、千倍(桁数で言うと3桁ごと)に接頭語が決められていて、キロ(K)の上は・・・

メガ(M)10の6乗、
ギガ(G)10の9乗、
テラ(T)10の12乗、
この辺まではコンピュータのメモリ容量を勘定する時に良く耳にします。メガバイトとかね。さらにその上は・・・

ペタ(P)10の15乗、
エクサ(E)10の18乗、
ゼタ(Z)10の21乗、
ヨタ(Y)10の24乗です。

小さい方のギリシャ倍数は、ミリの下が・・・

マイクロ(μ)10の -6乗、
ナノ(n)10の -9乗、
ピコ(p)10の -12乗、
フェムト(f)10の -15乗、
アト(a)10の -18乗、
ゼプト(z)10の-21乗、
ヨクト(y)10の -24乗、といった具合です。

生命科学では アト くらいまでは良く使いますので、知っているときっと役に立つと思うよ。


お父さん解説

  1. お父さんのお皿から、あのアブラミを取って食べようとした君たちを心の底から叱った事がある位好き。それから君たちはこれ食べて良い?と聞くようになった
  2. トリグリセリド:triglyceride
  3. 体重が急激に増えたな~と言う時、増えているのは大抵このアブラミの部分。
    例えば、お正月にゴロゴロ+暴飲暴食で5㎏太ったとしましょう。お肉屋さんで5㎏分のアブラミを見せてもらうと何かが心に切実に迫って来るはず
  4. カルボン酸:-COOH
  5. 脂肪酸:Fatty Acid
  6. 水酸基:-OH
  7. エステル化:esterifcation
  8. マチマチ : こういうのをヘテロと言う。 その反対で均質な状態はホモと言う
  9. ここに書いてある ギリシャ語の後ろに  「ン」 とか 「アン」をくっつけると 脂肪分子の正式名称になる。例えば 炭素8個の脂肪族分子はオクタン、炭素15個ならペンタデカン。
    後ろに  「~ノール」をくっつけると アルコールの名前になる。例えば 炭素8個のアルコールはオクタノール、炭素15個ならペンタデカノール。
    ところが!     炭素数が少ないと 慣用名の方を良く使うので、炭素2つの場合は ダインでなくエタンでエタノール。炭素4つの場合は テトランでなくブタンでブタノールだったりする。 覚えるのがめんどくさい…
  10. トライアスロン:いつも思うのだが、自転車 → マラソン → 遠泳 の順でやったら 死人 続出だろうな
  11. 土地の面積を測るヘクタールもこれ(100)由来
  12. ついでに 8567 = ヘプタヘキサコンタペンタクタオクタリア。舌を噛みそうだ
  13. そういえば、毛生えグスリの成分に ペンタデカン酸 と言うのがあった気がする
  14. ポリ:poly
  15. 現代ギリシャ語と異なるので、ギリシャ旅行で使っても通じないらしい
タイトルとURLをコピーしました