食物の吸収

まずは食べないとね...そして出す!

食べ物と言うのは自分以外の生き物、もしくは生き物の排泄物できています。

消化されて部品単位1になった食べ物は吸収されるのですが、食べたものは自分の体に形を変えないとなりません。

鶏肉をたくさん食べ過ぎたからと言って自分の体が鶏肉になっちゃたら変でしょう。だから今回は消化された食物のその後の運命についてのお話。

食物は、口、胃、十二指腸を食物が通過していく中で、様々な消化液と消化酵素の働きによって、栄養素が分子レベルでバラバラにされていくのでした。小さな部品レベルにまで分解する事によって、小腸で吸収する事ができる様になります。

そして、また新たに自分用の糖質、脂質、タンパク質として体の中で新たに組み立て直されるのです。

小腸

栄養素の吸収が行われるのは主に小腸です2

吸収とは、それまで外界(消化管内)にあったものが小腸の膜を通過して血中に入る事を指します。

口と肛門のある生物をチクワに見立てると、穴の中は体の外ですから、チクワの身の中に入っていくのが吸収ですね。

そして小腸の膜を通過して血中に入るのですから、膜の部分はできるだけ面積の大きい方が吸収の効率は良くなる。と言うわけで、小腸の内部は大きなヒダヒダができていて、そこに小さな凸凹をたくさん持っています。

象徴の凸凹の事を絨毛と呼びます3

絨毛構造を持つために、小腸内部の表面積はテニスコートにして約2面分の広さが有ると言われています。

この絨毛の表面にはビッシリと小腸の上皮細胞が並んでおり、その表面にもまたサイズは大分小さくはなりますが、ミクロの凸凹があります。微絨毛と呼びます4

こうまでして小腸では分子の吸収が効率よく行えるような広い表面積の構造をとっているのです。

ちなみに、この小腸上皮細胞はとても寿命の短い細胞として知られ、成熟してから栄養吸収に活躍できるのはほぼ24時間だそうな5

1日あたり、約150~200g位が糞になって出て行きます。と言う事は、ウンチのかなりの部分は死んでしまった小腸の上皮細胞なのですね。

次々と寿命が尽きて死んでいくのですから、細胞分裂によってその分を補充していかないと小腸における栄養素吸収の機能が果たせません。

肝臓

小腸を含めて、全ての消化器系で吸収された分子は静脈に入ります。

解剖学的には消化器系の静脈と言うのは全て門脈6と言う静脈に集約されて肝臓に入ります。だから吸収された全ての栄養素は必ずゲートキーパーである肝臓を通ります。

分子の形を変えずに、血中に乗るものも居る一方で、必要とされる分子形態に変わって全身に出て行くものがあります。

吸収された分子の肝臓での代謝はおよそ次の通り。

グルコースも脂肪酸もアミノ酸も、肝臓の中でエネルギー代謝系に入り、相互に形を変える事ができます。どの様なバランスでそれぞれの分子が必要か肝臓で振り分けていると言って良いでしょう。

また、グルコースが短期的な保管形態に変わってグリコーゲン7になり、脂肪酸とグリセロールが中性脂肪として再合成される、アミノ酸が今度はヒトのタンパク質に形を変えたりと言う化学反応を起こして、必要な分子を作り出していく経路ももちろんあります。

さて、肝臓は、他にもたくさんの機能を持っており、解毒と言う重要な役割も果たしています。

薬物を経口摂取した場合、消化管で吸収されたものは全てが門脈経由で肝臓に行きますので、もし、肝臓での代謝を非常に受けやすい薬物であれば直ぐに血中から無くなってしまいます。

これを薬物動態学の専門用語では初回通過効果(FPE)と称し8、実際問題としてその様なクスリは投与経路にとても悩む事になります。注射剤でしか売れないとしたらお医者さんでしか投薬できなくなってしまいますのでね。

最近では経皮吸収剤が発展し、飲まなくても貼るだけで全身効果が出るようになったものもあります。皮膚の静脈から入れば、とりあえずは全身に廻り、初回の肝臓通過を避ける事ができますから。

また、消化管でも直腸由来の静脈だけは門脈に繋がっていませんので、初回通過効果を避ける事ができます。ですから肛門座剤は、直接薬剤を全身に投与できる、とても便利な投与形態なのです。

熱を出してぐったりした君たちにクスリをあげる時、坐剤のありがたみが嫌と言うほどわかりました。

グリコーゲン

吸収したグルコースは体の中でまたアミロースやアミロペクチンに戻る訳ではありません。動物ではグリコーゲンとして一次的に貯蔵されます。

グリコーゲンは多数のグルコースがグリコシド結合によって重合し、枝分かれの非常に多い構造になった高分子多糖です。植物のデンプンは枝分かれの少ない形をしており、それとは対照的。動物デンプンとも呼ばれており、栄養のとり難い状態での滋養強壮に効果があります。

第一次世界大戦が終った大正時代のまん中頃、江崎利一と言うヒトは牡蠣9の煮汁中に豊富にグリコーゲンがある事を見出しました。

漁師さんはカキを煮た後、煮汁を捨てていたのです10。とてももったいない。

グリコーゲンを一番必要としているのは育ちざかりの子ども達だ!そこで利一は、子どもが喜んで食べるお菓子、中でも当時洋菓子として人気が高まってきていたキャラメルに入れようと考えました。

そして、1921年に合名会社江崎商店を設立して売り出した栄養菓子の名前は、ご想像の通り君たちの大好きなグリコなのです。


お父さん解説

  1. 三大栄養素の場合は、およそ次の通り。
    ・糖質はグルコース同士がエーテル結合(糖質の場合はグリコシド結合と呼ぶ)で繋がっていた部分が分解されて小さくなる。
    ・脂質は、中性脂肪の中でエステル結合している部分が脂肪酸とグリセロールに分解されて小さくなる。
    ・タンパク質は、アミノ酸同士がアミド結合(タンパク質の場合はペプチド結合と呼ぶ)で繋がっていた部分が分解されて小さくなる。
  2. 小腸:small intestine
  3. 絨毛:villi
  4. 微絨毛:microvilli
  5. 分裂速度の観点から見たもう一つの代表例は骨髄の中で造血に携わる造血幹細胞。細胞の分化は細胞分裂と同時に起こるので非常に旺盛に分裂・増殖している。抗ガン剤による治療は、増殖能力の激しいガン細胞にダメージを与えるのを目的としているのだが、実は増殖の旺盛なこれらの正常細胞にも大きなダメージを残してしまう。そのため、抗ガン剤の副作用としては骨髄抑制と消化器系出血/嘔吐が最も多くなる
  6. 門脈:portal vein:ポータルヴェイン →WEB でも各種の入り口のページの事を「ポータルサイト」と呼んでいるはず
  7. グリコーゲン:glycogen
  8. 初回通過効果:First Pass Effect:ファストパスエフェクト
  9. 牡蠣:カキ
  10. お父さんは専門課程に入り、カキからのグリコーゲン抽出実習をした。カキの匂いで吐気を催すお父さんにとっては地獄の実習であり、どんなにグリコーゲンの精製度を上げても匂いは取れなかった
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