コレステロールから胆汁酸

まずは食べないとね...そして出す!

物質が体内でどの様に変化を起こすのか。そういう事は生化学と言う科目できっと教わります。その時に初めて聞くと驚くかもしれません。今回のタイトルの話。

コレステロール1と言うのは健康診断の検査項目に良く顔を出します。片や胆汁酸は胆嚢から出てきて脂っこい食べ物の消化吸収を助ける消化液として知られています。

名前だけだとあんまり関係無さそう。ところが分子の形を示す構造式で見ると二つは大変良く似ているのです。それは胆汁酸の原料がコレステロールだから。

名前だけに惑わされてはいけません。生化学2は生命を化学の眼で見る学問です。

生命のキモである物質の同化・異化、すなわち代謝を物質の形の変化として捉えると、何がどのように変化するからどこに影響するのかと言う事が判る様になります。

コレステロール

もし、コレステロールが無ければリン脂質でできた脂質二重層が安定せず、ちゃんとした細胞膜ができません。だから生命活動を維持するための重要な脂質であり、細胞膜の中に大量に存在しています。

ところが、コレステロールと聞くと、生活習慣病予防検診などで高値を医者から注意されてしまう事から、一般的には循環器疾患を引き起こす大悪党のイメージが付きまとってしまいました。これはかわいそうです。

血中に多すぎるのは、血管の健康に取ってそれなりに問題ではあるのですが、少なすぎるのはもっと問題なのです。だって、生命活動の基本を支える脂質なのですから。

だから、ヒトの体内で量的に最も多い単一の脂質3はコレステロールです。

コレステロールは1784年に、胆石の成分の中から初めて同定されました。その時に、ギリシャ語のchole-(胆汁)とstereos(固体)、さらに水酸基4を持つ事から、アルコールの接尾語であるオール(-ol)をくっつけてcholesterol(コレステロール)と呼ばれる事になったのです。

胆汁酸

生薬とか、漢方薬と言うと薬草を乾燥して作るようなイメージがありますが、それが全てではありません。動物由来の物も数は少ないですが存在しています。

熊胆(ゆうたん)とか熊の胆(くまのい)と呼ばれるものは動物性の生薬5で、元々はツキノワグマやヒグマの胆嚢を乾燥させて造っていました。

恐ろしく苦みが強く、健胃効果や利胆作用などを期待して、消化器系全般の薬として昔から良く使われており、日本薬局方の規格の中にもちゃんと定められています。

主成分はクマの胆汁酸代謝物のウルソデオキシコール酸(UDCA)6と言うもので、物質そのものの構造はヒトの胆汁酸7とちょっと違うけれども、作用は同じです。現在では同じ成分を持つ医薬品が合成されウルソと言う名前で売られる様になりましたから、熊の胆の出番は無くなりました。

ウルソの添付文書を見ると「胆道:胆管、胆のう系疾患及び胆汁うっ滞を伴う肝疾患における利胆」「慢性肝疾患における肝機能の改善」「小腸切除後遺症、炎症性小腸疾患における消化不良」「外殻石灰化を認めないコレステロール系胆石の溶解」「原発性胆汁性肝硬変における肝機能の改善」「C型慢性肝疾患における肝機能の改善」と言った効能が並びます。

胆汁酸は肝臓で生成され、胆嚢を経由して十二指腸内に外分泌される消化液でした。

消化液を補充して油ものの消化を助ける訳ですから効能に「消化不良」があるのはしごくもっともだと感じます。ですが、肝機能の改善や胆石の溶解があるのはどうにも不思議。これは、油ものの消化を助ける時に胆汁酸は油と一緒になって吸収されるからです。

消化管の血流は直腸の一部を除き、全てが門脈と言う静脈を経由8して必ず肝臓に入るように出来ているのでしたね。

肝臓は、脂質・糖質・タンパク質の総合代謝臓器であり、ビリルビンの代謝、胆汁の生成と分泌、解毒作用もしてしまう一大生化学工場であります。消化管から吸収された胆汁酸がたくさんあれば、その分肝臓が胆汁酸を作り出す負担が軽減されて助かります。

そして、吸収された胆汁酸は肝臓から胆嚢に送られますので、胆道系の胆石も潤沢な胆汁酸によって溶解するから胆石のおクスリとして使えるのです。

また、胆汁酸は十二指腸に放出された後に吸収されて、また肝臓へ戻るのでした。そして肝臓は吸収されて来た胆汁酸を胆嚢の方へそのまま送ります。これにより胆汁酸の95%はリサイクルされています。

結局のところ、胆汁酸はグルグル、グルグルと腸と肝臓の間を何回も巡っており、これを専門用語で腸肝循環9と呼んでいます。

コレステロールからステロイド

コレステロールは細胞膜の構成成分であり、胆汁酸の製造原料でした。重要です。さらに、生体内ステロイドホルモン合成の出発原料でもあります。

ステロイドホルモンは微量で劇的な反応を生体に引き起こしますので、これをマネしてたくさんのステロイド系抗炎症薬が合成されました。

代表的なものとしては、ベタメタゾン/デキサメタゾン/プレドニゾロン/ヒドロコルチゾン/トリアムシノロン。ステロイドと言うのは脂溶性が高く、油で出来た細胞膜を自由に通り抜けることが出来ます。

そして細胞の内部(サイトゾル)10と言うに存在するステロイド受容体に結合すると、受容体ごと核内に移行して転写活性化因子として直接遺伝子発現を制御してしまうと言うとんでもない動きをします。

魔法のお薬であるステロイドも、やはり元々の生体の仕組みを上手にマネしているのでした。


お父さん解説

  1. コレステロール:cholesterol
  2. 生化学:Biochemistry
  3. わざわざ「単一の」と前置きしたのは、トリグリセリドとかリン脂質は量は多いけれども、それを構成している部品(脂肪酸の事)の長さがマチマチなので必ずしも同一分子とは言い難いから。すなわち、へテロな集団だからという事
  4. 水酸基:-OH
  5. 熊胆:一部マニアの間では珍重されており、中国では「熊農場」でクマから強制的に胆汁を採取して乾燥させて作られていて、国際的に問題視されている
  6. ウルソデオキシコール酸(UDCA)
  7. ヒトでの代表的の胆汁酸は2種類知られている。コール酸:cholic acid、ケノデオキシコール酸:chenodeoxycholic acid。更に胆汁酸は、通常グリシンやタウリンと結びついており、これを抱合胆汁酸と呼ぶ。アミノ酸のグリシンが引っ付くとグリココール酸: glycocholic acid 、アミノ酸のタウリンが引っ付くとタウロコール酸:taurocholate 。2つで抱合胆汁酸の全体の約80%を占める
  8. 解剖学的に言うと、直腸を除く全ての消化管の静脈は門脈と呼ばれる静脈一つに集まり、肝臓に入る
  9. 腸肝循環:Enterohepatic circulation
  10. 細胞質/cytosol/サイトゾル
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