呼吸とTCAサイクル

実は体の中で燃えている

ファイト~!いっぱ~~つ!のコマーシャルでお馴染み、エナジーサイクルと言う言葉の中身を考えてみました。回路がクルクル回ると生体エネルギーが生まれるのですよ。

食べ物からエネルギーを取り出す異化1と、取り出したエネルギーを使って必要なものを造る同化2、すなわち代謝3を知る事が生命を知る近道であります。

今回、生体エネルギーを生み出すために必要な代謝活動のキモの部分4に到達しました。

キモ、とは肝の事ですね。ただし、エネルギーを生み出すための代謝は肝臓だけで無く全ての細胞でやっていますのでお間違えの無いように…

TCAサイクル

エネルギーの源は、消化・吸収活動を通じて、脂質・糖質・タンパク質が小さな部品単位にまで分解されて血中に入っていきます。

それぞれ脂質はグリセロールと脂肪酸、糖質はグルコースなどの単糖類、タンパク質はアミノ酸レベルにまでバラバラにされるのでした。

グリセロール、脂肪酸、単糖類を構成する元素は、炭素「C」、水素「H」、酸素「O」です。アミノ酸はこれに加えて窒素「N」を持っています。その他にイオウ「S」、リン「P」を加えると我々の体を構成する有機化合物の元素がほぼ出揃います5

そしてエネルギー産生用に使われる構成部品6が、様々な代謝経路に乗って形を変えて行く過程で我々が生きていくのに必要なエネルギーが取り出されていきます。

エネルギーの産生経路としてはいくつかが知られていますが、最も効率が良いのは外部から取り込んだ酸素によって、構成部品を酸化する時に発生させる経路です。

これはクエン酸回路、TCA回路、または、発見者の名前からクレブス回路と呼ばれる代謝経路の中で行われています7

この経路では、酸素を使って構成分子を酸化し、最終的にエネルギーと水と二酸化炭素を生み出していきます。これはロウソクの脂質成分8が空気中の酸素によって燃焼し、熱エネルギーと水と二酸化炭素を生み出しているのと同じ。燃焼とは急激な酸化の事を言いますのでね。

ですから、我々が食べ物から効率良くエネルギーを得るためには呼吸して必要な酸素を獲得しなければなりません。食べるだけではなく、息をしないと死んでしまう…

ロウソクにコップをかぶせると消えてしまうのと一緒なのです。

呼吸

単細胞生物とか、細胞数の少ない多細胞生物であれば、外界から直接酸素を取り入れて、エネルギー代謝後の二酸化炭素を放出するのは簡単でしょう。

体を構成する細胞が多くなってくると、体内に循環器系が必要になってきます。これは栄養分を体内循環させると共に、エネルギー産生に必要な酸素を全身の細胞にくまなく届けるためです。

このために、生体はヘモグロビンやヘモシアニンの様な酸素と結びつく特別な分子を大量に合成し、赤血球を血管中に巡らせています。

ここで呼吸と言っているのは、正確には内呼吸9の事を指しています。赤血球が体の深部に到達して持っている酸素を組織細胞に渡す時の事を言っており、肺でのガス交換の事を外呼吸10と呼んで区別しています。

酸素と言うのは、その強い酸化力のため有機化合物で出来た生体にとってはとても毒性の強い気体です。

地球の誕生時にはそもそも酸素は存在していなかったのですが、原始生命から藻類が生まれて光合成が始まるようになり、徐々に地球上には酸素が蓄積されました。

酸素を利用した酸化過程を使って、効率よく大量のエネルギーを利用できる生物が生まれた事も、現在の生命の繁栄に繋がったのだと言う事が出来ます。

TCAサイクル

呼吸による酸化過程で効率よく大量のエネルギーを有機物から取り出す代謝経路は1940年代に盛んに調べられました。

中心となるのはクエン酸 → αケトグルタル酸 → コハク酸 → フマル酸 → オキサロ酢酸 → そしてまたクエン酸への物質変換の一連の流れの中でエネルギーを取り出すTCAサイクルです。

物質がクルクル代謝回転する経路ですので回路と呼ばれるのですね。

酸素のある条件下ではこの経路によってたくさんのエネルギー分子、例えばATP11とか、NADH12、FADH213を生み出しています。

エネルギーの素となる分子の供給は元となる栄養素によって異なっています。グルコースの場合、解糖系によって分解され、ピルビン酸14から、アセチル-CoA15と言う分子を経由してTCAサイクルに入ります。

脂質の場合、グリセロールがピルビン酸に変化してから単糖と同様の経路をたどるのと、脂肪酸が分解されてから大量のアセチル-CoAを経てTCAサイクルに入る経路に分かれます16

アミノ酸の場合は20種類それぞれに構造が異なりますので、アミノ基が取れてピルビン酸に変化してから経路に入る場合、分子が分断されてアセチル-CoAとなって経路に入る場合、アミノ基が取れて直接TCAサイクルのメンバー分子になる場合の3種類に分かれます17

代謝経路がTCAサイクルの内部、及びその周辺で共通としているので、糖質・脂質・タンパク質間では、お互いがそれぞれの必要な形に変化しあう事が行われています。


お父さん解説

  1. 異化:catabolism
  2. 同化:anabolism
  3. 代謝:metabolism
  4. 日本語では大事な部分、重要なプロセスの部分の事を肝腎要(かんじんかなめ)と言う
  5. 有機化合物の構成元素は「チョンスプ」と覚えます。→ CHONSP !
  6. 構成部品:Building Block
  7. クエン酸回路:citric acid cycle、TCA回路:TCA cycle:tricarboxylic  acid cycle、クレブス回路:Krebs cycle 呼ばれ方は様々ですが、全て同じもの
  8. ロウソクの脂質成分:これは様々なモノが使われるが、代表的なモノは生物の持っているワックス成分である事が多い。
    ワックスとは一般的には1価アルコールと脂肪酸のエステルの事
  9. 内呼吸:internal respiration
  10. 外呼吸:external respiration
  11. ATP:アデノシン三リン酸:adenosine triphosphate
  12. NADPH:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸:NADP、 NADP+、 nicotinamide adenine dinucleotide phosphate
  13. FADH2:還元型フラビンアデニンジヌクレオチド:flavin adenine dinucleotide
  14. ピルビン酸:pyruvic acid
  15. アセチル-CoA:acetyl-CoA
  16. 脂肪酸がTCA サイクルでエネルギーに変えられる様になるためには、β酸化と言う代謝経路を通過しないといけない。
    炭素数16のパルミチン酸の場合は、β酸化で8個のアセチル-CoA が出来るのでTCA サイクルが8回クルクルと回る。すなわち脂肪酸を溜め込む中性脂肪というのは大量のエネルギーを保存している。
    だから中性脂肪を溜め込むのはエネルギー貯蔵に向いている
  17. 注意しなければならないのがアミノ酸。アミノ酸と言うのは分子内に窒素「N」をアミンの形で持っている。
    タンパク質を構成するアミノ酸は全部で20種類あるが、ヒトのタンパク質を作る時に必要十分な種類のアミノ酸が過不足無く摂取できていれば良いが、なかなかそうはいかない。必ず使われない余りのアミノ酸も出てくる。
    タンパク質合成に使われなかった余りのアミノ酸は、他のアミノ酸の合成材料にされたりもするが、それでも余る物は分子内のアミンが窒素化合物として排泄される。
    こうして出来た窒素を含有する化合物は腎臓の糸球体で濾過されて排出されるが、腎臓の仕事量が多くなり腎不全の場合はそれを更に悪化させる事になってしまう。
    そのため、腎不全の患者さんにとってはタンパク質の摂取量をきちんとコントロールする必要が有ると共に、余りが出ないようにバランスの取れたアミノ酸組成のタンパク質を摂る事が重要。
    アミノ酸バランスといえば大豆、納豆だね。(くどい?)バランスの取れたと言うのは良質なと言うのと同義
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